ベトナム料理に欠かせない調味料、ヌクマム。
しかし初めて嗅いだ人の多くが、「強烈な匂い」に驚く。
それでも ベトナム では、ヌクマムは料理の脇役ではなく、食文化の中心的存在として使われ続けてきた。
なぜ、これほど匂いの強い調味料が国民的調味料として定着したのだろうか。
ヌクマムは「味」ではなく「土台」
料理の方向性を決める存在
ヌクマムは、単に塩味を足すための調味料ではない。
料理全体の方向性、つまり「どんな料理か」を決める基盤の味として使われる。
使われていないと物足りない
少量でも、入っているかどうかで料理の印象が大きく変わる。
それほどまでに、味の核を担っている。
強い匂いは「発酵の証」
魚を長期間保存する知恵
ヌクマムは、魚と塩を使い、長期間発酵させて作られる。
冷蔵技術のない時代、魚を保存するために発酵は不可欠だった。
匂い=腐敗ではない
ヌクマムの匂いは、腐った匂いではなく、発酵によって生まれた香りだ。
時間をかけて分解されたタンパク質が、強い旨味と匂いを生む。
旨味が油の代わりをしている
コクを油以外で補う
ベトナム料理は油を控えめにする代わりに、ヌクマムの旨味で満足感を作る。
少量で味が決まる
油のように大量に使わずとも、ヌクマムは少量で料理に深みを与える。
この効率の良さが、日常使いに適していた。
酸味・甘味と組み合わさる前提
単体では使わない調味料
ヌクマムは、そのまま大量に使うものではない。
多くの場合、
- 酸味(ライム・酢)
- 甘味(砂糖)
- 香草
と組み合わせて使われる。
匂いが和らぎ、旨味が際立つ
他の要素と合わさることで、匂いは抑えられ、旨味だけが前に出る。
これが、ヌクマムが「臭いのに美味しい」理由だ。
海に囲まれた地理条件
魚が豊富に手に入った
ベトナムは海岸線が長く、魚介類が身近な環境だった。
魚を無駄にしない発想
獲れた魚を余すことなく使うため、魚醤は合理的な選択だった。
資源を最大限活用する知恵が、ヌクマムを生んだ。
匂いへの耐性が育った文化
幼少期から慣れ親しむ
ベトナムでは、子どもの頃からヌクマムの匂いに触れる。
そのため、匂いは「不快」ではなく「食欲を呼ぶ香り」になる。
文化的な慣れの違い
匂いの評価は、味覚と同じく文化的なものだ。
慣れた人にとっては、欠かせない香りになる。
なぜ欠かせないのか(まとめ)
ヌクマムが臭いのに欠かせない理由は、
- 料理の土台となる味である
- 発酵による保存と旨味の知恵
- 油の代わりにコクを生む役割
- 酸味・甘味と組み合わせる設計
- 魚資源を無駄にしない地理条件
- 文化的な味覚の形成
といった要素が重なった結果である。
ヌクマムは、ベトナム料理の「個性」ではなく、合理性の集積なのである。
