タイ料理を代表する「グリーンカレー」と「レッドカレー」。
見た目の色や辛さだけで語られがちですが、実はこの“色の違い”は単なるバリエーションではありません。
そこには、気候・交易・宗教・民族文化・保存技術が絡み合う長い歴史があります。
本記事では、二つのカレーがどう誕生し、どんな文化背景を持つのかを、専門的視点で徹底解説します。
食文化が形成された歴史的背景
気候:高温多湿が“色鮮やかな香辛料”を求めた
タイの蒸し暑さは、保存と食欲維持という二つの問題を抱えていた。
- 辛味で発汗し体温調整
- ハーブの香りで食欲を刺激
- カラフルなスパイスで酸化に強い調味料を作る
色の違いは、気候に適応するためのスパイス選択の差でもある。
交易:インドと中国の“香辛料文化”の融合
タイのカレー文化は、交易による多文化の混交の象徴。
- インド → カレーの基礎となる香辛料文化
- 中国 → ココナッツミルクの利用・香味野菜
- ポルトガル → 唐辛子の流入(16世紀)
- アラブ → 香りの強いスパイス文化
これらが合流して“タイ式カレー”として独自進化した。
宗教:色は“浄化・祈り”とも結びつく
上座部仏教と精霊信仰では、色には象徴性がある。
- 緑=若々しさ・生命力
- 赤=活力・魔除け
- 黄色=功徳・吉祥(ターメリック系)
カレーの色は、料理以上に“祈りの色”と結びついていった。
地理:地域差が色の違いを生んだ
- 中部:ココナッツが豊富で“濃厚系”が発達
- 北部・東北:ハーブが強く“緑系カレー”が普及
- 南部:スパイスが強く“赤系・黄系”が発展
地理的特性が色の文化を作り分けた。
食文化の特徴(味付け・主食・食材)
グリーンカレーが緑色になる理由(香りハーブの文化)
グリーンカレーの色は、複数の「緑の香り素材」によって生まれる。
- 青唐辛子 → 鮮烈な辛味と緑色
- バジル(ホーラパー) → 香りの厚み
- コブミカンの葉 → 清涼感と香りの輪郭
- コリアンダー根 → 土の香りで深み
緑=香りの象徴であり、「タイのハーブ文化」の延長にある。
レッドカレーが赤色になる理由(唐辛子の歴史)
レッドカレーの赤色は、唐辛子文化が成熟した結果。
- 乾燥赤唐辛子 → 色と香りを固定
- 油で炒める → 色が油に移り鮮やかになる
- 発酵調味料と組み合わさり旨味が増す
赤色は“保存性が高く、辛さが安定する色”でもある。
ココナッツミルクが両カレーを結ぶ“共通の母体”
グリーンもレッドも、ココナッツミルクが味の骨格を作る。
- 油の酸化を防ぐ
- 辛味と酸味を包み込む
- ハーブやスパイスの香りを長く保つ
ココナッツ文化が、二つのカレーの“共通言語”。
食事マナー・タブーの背景
カレーは“ご飯と一緒に食べるのが基本”
タイでは、カレーを単体で食べることは少ない。
- 米が辛味を調和
- スプーンで混ぜながら少量ずつ味わう
- 辛さは食事のリズムを作る役割
ご飯とカレーの関係は“調和”そのもの。
辛さ調整は“文化的思いやり”
タイ料理は辛味文化が強いが、カレーは調整が前提。
- 子ども・高齢者向け → マイルドに
- 僧侶向け → 刺激控えめ
- 客人向け → 甘味・香りを強く
食卓での辛さは、その場の関係性を象徴する。
儀礼料理での色の使い分け
カレーは儀礼食としても用いられる。
- 黄色系(ターメリック) → 葬儀・法要
- 赤系 → 魔除けや祝いの席
- 緑系 → 若い家庭や季節の行事
色は“祈りのメッセージ”として機能する。
他国との比較でわかる特徴
周辺国との違い
- インド:スパイス層が重い → タイは香りと甘味が軽い
- マレーシア:油が多く濃厚 → タイはハーブで清涼感
- カンボジア:発酵強め → タイは発酵+香りのバランス
同じ唐辛子文化でも差が生まれた理由
- 中国 → 麻辣の辛さ
- インド → 油とスパイスの層
- タイ → 酸味・香り・辛味の三位一体
辛さの“方向性”が全く異なる。
まとめ
- グリーンとレッドの違いは、気候・交易・香り文化が生んだ“歴史の色”。
- 緑はハーブ文化、赤は唐辛子文化という食の系譜を象徴する。
- 色の背後には、祈り・保存・地域性が深く根付いている。
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