インドでは今、「ミレット(雑穀)」が再び注目されています。
国連が2023年を“国際ミレット年”として指定し、インド政府も積極的に推進。
しかし、なぜ今ミレットが復活しているのでしょうか?
- そもそもインドの雑穀文化とは?
- なぜ一度は“貧しい食べ物”として扱われた?
- 健康と宗教の観点で再評価されている?
- 気候変動で需要が増えている?
結論:
ミレットは古代インドの伝統食であり、現代の“健康・環境・農業問題”を解決する食材として再浮上している。
この記事では、ミレット文化の歴史と再注目の背景を徹底的に解説します。
ミレット文化が形成された“歴史的背景”
古代インドは「米・小麦より雑穀が主食」だった
紀元前のインダス文明や古代南アジアでは、実は“米や小麦より前にミレットが主食”だった。
理由:
- 乾燥に強い
- 栽培が簡単
- 病害虫に強い
- 保存性が高い
特に:
- ラギ(フィンガーミレット)
- バジュラ(パールミレット)
- ジョワール(ソルガム)
は古代インドで広く育てられていた。
ミレットこそ、インドの伝統的な主食の原型 だった。
雑穀文化は“地域の気候”と密接に結びついていた
南アジアは地域差が極端。
乾燥地帯(ラジャスタン・デカン高原)
→ ミレットが最適
→ 乾燥・痩せ地でも育つ
湿潤地帯(南インド・ベンガル)
→ 米文化が台頭
北インド平原(パンジャーブ)
→ 小麦文化が覇権を握る
ミレットは、厳しい環境で農民の生活を支えた作物 として根付いた。
近代以降、“米・小麦中心の政策”で雑穀が衰退した
インド独立後、政府は食糧難対策として
- 米
- 小麦
の大量生産を推進し、雑穀は“貧しい人の食べ物”という扱いになった。
その結果:ミレット文化は急速に衰退していった。
ミレットの特徴(味付け・主食・食材)と再注目の理由
① 栄養価の高さが“健康ブーム”で再評価された
ミレットは栄養価が極めて高い。
- 食物繊維:白米の3〜10倍
- 鉄分:小麦の2〜3倍
- カルシウム:穀物トップクラス
- グルテンフリー
- 低GIで血糖値が上がりにくい
現代インドでは、生活習慣病の増加 → ミレット需要が爆発 という流れが起きている。
② アーユルヴェーダ的に“体質に合う穀物”として重要
アーユルヴェーダでは、雑穀は体質(ドーシャ)の調整に使われる。
- ラギ:体を冷やす
- バジュラ:体を温める
- ジョワール:消化が軽い
ミレットは“薬としての穀物” として、宗教行事の食にも使われることがある。
③ 気候変動で“ミレットは最も育てやすい穀物”になった
気候変動が深刻化する中で、ミレットは非常に重要。
- 乾燥に強い
- 水が少なくても育つ
- 高温に強い
- 農薬がほとんど不要
- 収穫が安定
現在インド政府は 米・小麦からミレットへの転換を推進 しているほど。
ミレットに関するマナー・タブー(宗教×文化)
① 断食(ファスティング)でミレットが許可される理由
ヒンドゥー教の断食日(エーカダシなど)では、白米や小麦が禁止される場合がある。
しかしミレットは
- “土に近い穀物”として浄化を象徴
- 消化が軽いため負担が少ない
- 伝統食という神聖な位置づけ
として食べてもよい地域が多い。
宗教と雑穀文化が深くつながっている好例。
② “ミレットは祖先の食べ物”という価値観
インド農村部では、雑穀は祖先が食べてきた食材として敬われる。
そのため
- 捨てるのはタブー
- 農家では特別な日にミレット粥を作る
- 祝祭では“昔ながらのミレット料理”が登場
文化的に特別な存在である。
③ 現代では“都会の高級料理”としても扱われる
かつては“貧しい人の食べ物”と言われたが、今は
- 高級レストラン
- 健康志向の家庭
- 海外輸出向け食品
として再評価されている。
ミレットは 庶民食 → 高級食 → 健康食 という珍しい文化変遷をたどっている。
他国との比較でわかるインドの雑穀文化
● 日本
→ 雑穀は“健康のために混ぜて食べる”文化
→ インドは“主食そのもの”として歴史的地位が高い
● アフリカ
→ ソルガムが主食で共通点が多い
→ インドは宗教と結びついている点が異なる
● 中国
→ 小米(モロコシなど)はあるが、宗教性は薄い
→ インドは宗教儀礼・断食などとの関係が濃い
まとめ
- ミレットは古代インドの主食であり、気候と農業に最適な雑穀だった。
- 現代では健康・環境・宗教から再注目されている。
- 気候変動が進む中、ミレットは“未来の主食”として位置づけられている。
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