インドの家庭料理を最初に見た日本人が驚くのは、「とにかく皿(副菜)が多い」という点です。
- 1食で5〜10種類の副菜
- ごはん(またはロティ)
- スープ的カレー
- 酸味の副菜
- 揚げ物
- 甘いものまで付く場合も
なぜ、これほど多皿構成が発達したのでしょうか?
その理由は、宗教・気候・栄養・農耕・家族文化 すべてが影響しています。
この記事では、インド家庭料理の「構造」を文化背景から徹底的にひも解いていきます。
インドの家庭料理が“多皿構成”になった歴史背景
家庭料理が多皿になる理由を理解するには、インドの 宗教・気候・歴史 を見る必要があります。
① 栄養バランスを補う必要があった(菜食文化の影響)
ヒンドゥー教・ジャイナ教の影響で、肉料理が少ない家庭が多く存在します。
そのため、不足しやすい栄養を“副菜の数”で補ったのです。
- 豆(タンパク質)
- 香辛料(抗菌・消化)
- 野菜(微量栄養素)
- 乳製品(脂質・タンパク質)
1品で栄養を取るのではなく、複数の副菜による組み合わせで完全な食事を作るのがインド方式。
② 気候が「保存できる副菜文化」を生んだ
高温多湿のインドでは、食材が腐りやすいため、以下の方法で保存性を高める工夫が育ちました。
- スパイスで抗菌
- 油で揚げて保存性UP
- 酢・レモン・タマリンドで酸味付与
- 塩気を強くする副菜も多数
こうして、自然と “保存しやすい副菜”が複数必要な文化 ができあがったのです。
③ 大家族文化が「大皿・多皿」を標準化した
インドの多くの家庭はかつて Joint Family(大家族制) でした。
- 祖父母
- 子供夫婦
- 孫
- 兄弟の家族
が一緒に暮らすため、大皿・多皿で分食する形が合理的 でした。
少人数料理より、「たくさんの副菜をまとめて作る」方が効率が良かったのです。
タルカとは何か?(家庭料理の仕上げ技法)
タルカ(Tarka / Tadka)は、スパイスを油で熱して香りを引き出し、料理にかける仕上げ技法。
日本語では「テンパリング」とも呼ばれます。
使うスパイス例
- クミン
- マスタードシード
- カレーリーフ
- 乾燥唐辛子
- ニンニク
タルカが果たす役割
- 香り付け
- 抗菌作用
- 消化促進
- 家庭ごとの“味の個性”を形成
タルカがあるからこそ、“家庭ごとに味が違うインド料理”が成立します。
北インドの家庭料理:ターリーの構造
北インドは小麦文化(ロティ・チャパティ)。
家庭料理の典型は ターリー(Thali)。
北インドのターリー構成
- ロティ / チャパティ
- ダール(豆料理)
- サブジ(野菜の炒め煮)
- ヨーグルト
- アチャール(漬物)
- 甘味(時々)
特徴
- クリーミー
- 乳製品多め
- リッチな味付け
- 小麦に合う濃度
南インドの家庭料理:ミールスの構造
南インドは 米+多汁文化。
ミールスの構成
- ライス
- サンバル(豆と野菜のスープ)
- ラッサム(酸味スープ)
- ポリヤル(野菜炒め)
- パパド(豆せんべい)
- ヨーグルト(締め用)
- ピックル(酸味副菜)
特徴
- サラッとして軽い
- 酸味が強い
- ココナッツ文化
- 発酵食(イドリ・ドーサ)
なぜインドは“副菜で味を作る”のか?
答えはシンプルで、
「単品の調味より、組み合わせで味を完成させる文化」だから。
日本
:1品=完成された味(味噌汁、肉じゃが、刺身)
インド
:主食+副菜+副菜+副菜……の組み合わせが“完成形の味”。
そのため副菜の数が多くなるのです。
他国との比較でわかるインド家庭料理の特徴
| 国 | 特徴 |
|---|---|
| 日本 | 一汁三菜・品数は多いが味は単独完成 |
| 中国 | 炒め物中心で油と火力が重要 |
| 東南アジア | 米中心+スープ文化 |
| インド | 多副菜 × 多汁 × タルカ仕上げ |
インドは “組み合わせで食べる文化”が世界的にも非常に強い国 と言えます。
まとめ
- インド家庭料理は宗教・気候・社会構造が複合して“多皿構成”になった
- 副菜は栄養補給・保存性向上の役割がある
- タルカは香り付け+抗菌+家庭の個性を決める技法
- 北インドは小麦・濃厚、南インドは米・軽い味付け
- 味は1品ではなく“副菜の組み合わせで完成”する
インドの家庭料理は、合理性と宗教観と家族文化が融合した、非常に高度な食体系です。

