インドでは、ヨーグルト(ダヒ)やラッシーはほぼ毎日のように食卓に登場します。
- 食事の最後にダヒ
- 外出すればラッシー屋が並ぶ
- 宗教儀式でも乳製品が使われる
なぜインドではこれほど“乳製品文化”が強いのでしょうか?
この記事では、気候・宗教・家畜文化・歴史・健康観 という5つの要素から、インドの乳製品文化がどのように形成されたのかを解説します。
インドの乳製品文化が形成された“歴史的背景”
牛・水牛の家畜文化が古代から強かった
インドは牛・水牛の飼育に非常に適した地域で、古代から牧畜が盛んだった。
理由:
- 草原地帯が広い
- 乾燥地帯でも水牛が飼育しやすい
- 農耕と畜力が深く結びついた
- 牛が宗教的に尊ばれた
結果として、乳が毎日自然に手に入る環境 が整っていた。
高温地帯で“牛乳をそのまま保存できなかった”
インドのような高温地帯では、牛乳はすぐ腐敗する。
そこで生まれた知恵が
- 発酵(ヨーグルト=ダヒ)
- バター製造
- 澄ましバター(ギー)
- チーズ(パニール)
- ラッシー(薄める+発酵)
つまり乳製品が発展したのは “保存技術としての発酵”が不可欠だったから。
ヒンドゥー教が乳製品を“神聖な食材”にした
ヒンドゥー教では、乳製品は特別な地位を持つ。
- 牛は母なる存在
- 乳は“生命の液体”
- ギーは神への供物
- ヨーグルトは浄化を象徴
特にヨーグルト(ダヒ)は
- 供物
- 儀式
- 結婚式の前儀式
- 新しい挑戦前に食べる縁起物
という重要な役割がある。
宗教が乳製品文化を圧倒的に強固にした。
乳製品(ヨーグルト・ラッシーなど)の特徴と“なぜこうなったのか”
① ヨーグルト(ダヒ)は“体温を冷ます食材”として必要だった
インドは高温多湿で暑さが厳しい。
ヨーグルトには
- 身体を冷ます(アーユルヴェーダ的に“冷性”)
- 消化を補助
- 胃の熱を取り除く
- 辛い料理の刺激を緩和
という効果があり、インドの気候に完全にマッチしていた。
② ラッシーは“消化のための飲む乳製品”として普及した
ラッシーはヨーグルトを水で薄めた飲料。
なぜ普及した?
- 水が安全でなかった時代に、発酵で殺菌された飲料が必要
- 乳酸菌が消化を助ける
- スパイス料理の後に胃を整える
- 暑さ対策として理想的
- 長旅でも飲みやすい
現代では甘いラッシーが人気だが、伝統的には 塩ラッシー(チャース)=健康飲料 が主流だった。
③ パニール(フレッシュチーズ)は“肉の代替タンパク質”として重要
菜食文化の強いインドでは、肉の代わりに乳製品が必須。
パニールは:
- 宗教的に安心
- 消化しやすい
- 高タンパク
- 調理が自由
という理由で、“ヒンドゥー菜食の肉代替食”として発達した。
乳製品文化に関するマナー・タブー(宗教×文化)
① 乳製品は“神を汚すような扱い”をしてはいけない
- 足元に置かない
- 床にこぼさない
- 別の食材と粗末に混ぜない
など、扱いには厳しいマナーがある。
理由:
乳=神聖性の象徴
ギー=礼拝の灯火
ヨーグルト=幸福の兆し
② ダヒ(ヨーグルト)を“最初と最後に食べる”のは縁起を担ぐため
インドでは、
- 勉強前
- 新しい仕事の前
- 結婚式の出発
などに、ダヒを食べる儀式がある。
意味:
- 物事が円滑に進む
- 心を落ち着ける
- 清浄な状態で出発する
③ ラッシーを“夜に飲まない”地域もある
アーユルヴェーダでは、乳製品は夜に重くなるとされる。
そのため夜のラッシーは
- 体が冷えすぎる
- 消化に悪い
- 胃に残る
と信じる地域が多い。
他国との比較でわかる“インドの乳製品文化”
● 日本
→ 乳文化は近代以降
→ インドは古代から宗教的中心
● 中東
→ ヨーグルト文化は近い
→ インドは“儀式・日常・健康”の三位一体で独自性が強い
● 東南アジア
→ 乳製品文化が弱い
→ インドは乳が食文化の柱
まとめ
- インドは牛・水牛文化が強く、乳製品が日常的に手に入った。
- 気候・健康・宗教がヨーグルトとラッシー文化を強固にした。
- 乳製品は“食材”であり“儀式の象徴”でもある独自の文化を形成している。

